第二幕第一場:次のステージへ
関東大震災後の混乱も一段落した頃、既に巨万
の富を築き上げていた良一は、地元の村会議員
になり、康成も東京帝国大学を卒業して本格的
な作家生活に入っていた。
その後、良一は最初の妻となる国友菊重と結婚
し、康成は後に夫婦となる松林秀子との同居生
活を始める。
良一は、全国的な不況で打撃を受けた銀行の頭
取に無利子で融資したり、国防社という出版社
の借金を肩代わりして社長になったり、大手プ
ロダクションから干された俳優の市川右太衛門
のために新しいプロダクションを立ち上げたり
と、社会活動家としての一面を持つようになっ
てきた。
良一は康成からの電話で、いよいよ「伊豆の踊
子」の出版が決まったことを聞き、金融や芸能
といった世界と関わって行かなければならない
自分と、純粋な世界を追求する康成とは、別々
の人生を歩んでゆくべきと痛感している。