それと入社同時に僕は取締役に就任し、
先代から「30歳で社長交代する」とも言い渡された。
番頭不在、昭和一ケタ世代の先代が、
仕事については何一つ教えてくれることはなかった。
会社にあるすべての書類を、ひっくり返しながら仕事を覚えていった。
その甲斐あってか僕が25歳には、会社の印鑑・小切手なども預かり、
先代も会社に週一回しか来なくなった。
また、家業を通じ、同族経営の在り方、先代と後継者の関係性など、
答えのない難解な課題にも遭遇するのであった。
先代は歴史を、後継者は変化を起こそうとする。
先代は、「オレ流」で何事も決めていき、会長に居直り院政をひく。
後継者らは仲間内で愚痴を言うばかりで、書物、人の話を聞きに
勉強へ勤しむことなく、無意味な時間をやり過ごす姿。
私はそういう後継者とは一切付き合わず、いつ本当に後継時期が
来るかは定かではなかったが、着々と自身で準備を進めていたのであった。
特に、「人を動かして事を為す、人の上に立つ存在」に備えるべき
「姿勢、態度、意識、思考、視点、所作、言動、感情、習慣、行動」といった
「総合的人格」について興味をもつようになった。
寝るのを惜しみながら、古今東西にわたる経営者の偉人伝を片っ端から
読み漁ったのも、この時期であった。