第一幕
第七場:後継ぎ
良一は、笹川家の後継ぎとして、弟の春二と了
平、妹のヨシコ、そして母のテルの世話もしな
がら、一人前の商売人として風格を有するよう
になってきた。
しかし、まだ当主の鶴吉が現役であるので、良
一の主な仕事は造り酒屋の経営よりも近隣の同
業者などとの付き合いや、村人たちからの各種
の相談を受けることなどで、今や村の名士とし
て多くの人々からの信頼を得る存在になってい
る。
ある年の暮れ、良一は鶴吉に呼び出された。
「良一よ。年明け過ぎ頃に、家督をお前に譲っ
て隠居しようと思っておる。覚悟はできてる
か?」
良一は突然の話に戸惑っていた。
父はまだ元気そうなので、今の気楽な立場がい
つまでも続くような錯覚を持っていたことに気
付いたのである。