第一幕
第三場:空への憧れ
良一の生家である造り酒屋の店先で、良一の父
の鶴吉が、常連らしい客と激しく言い合ってい
る。
「お前に売る酒はないわい!」
「親父、商売人のくせに客に向けてそんな口聞
くんか!」
「お前、昨日も一升瓶買って帰ったやろ。どん
だけ飲んだら気が済むんや!」
「客が買うって言うとるんや。とやかく言わん
と酒出さんかい!」
そこに客の妻らしい女性が走り寄ってきて言う。
「笹川さんのご主人、亭主に酒を売ってくれは
らんで、ありがとうございます」
鶴吉は、自分の酒造の仕事に誇りを持ってお
り、酒を嗜むことで幸せになれる客にしか売ら
ないという方針を通しているのである。
女房には頭が上がらない様子の客は、渋々なが
ら何も買わずに去っていく。
そんな時、良一が帰ってきた。
「ただいま」母のテルが出迎えて言う。