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良一物語はじめに

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この物語の主人公は笹川良一です。

 

第二次世界大戦後を生きた人たちは、彼を“政財

界の黒幕”“フィクサー”“右翼のドン”などと呼

び、腫れ物に触れるかの如く、彼の話題を直接

語ることを避けてきたように思えます。

 

そのためか、笹川良一が九十六年の生涯の中で

具体的に何をやってきたのか、あるいは彼自身

人間性や交友関係などについての情報は、あ

まり知られているところではありません。

 

この物語を書いて後世に残すべきと考えたの

は、春二(良一実弟)の孫・能孝です。

彼は、言葉を交わしたこともない大伯父の生き

様に日本人として大きな誇りをもって生きてき

ました。同時に、良一が取り組んできた公益活

動と人物評の大きな乖離に長年疑問を抱いてき

ました。

 

そして、この物語を宝塚歌劇のようなファンタ

ジーに仕立てようと考えたのは河合保弘です。

河合保弘は作家で、笹川能孝とは十年来の朋友

でもあります。

河合保弘は、笹川良一と同じく大阪府に生を受

け、モーターボート競争の祭典“笹川賞”が毎年

開催されていた住之江競艇場の近くに住み、“一

日一善”のテレビコマーシャルを見ながら、常に

笹川良一”という人物を意識して育ってきまし

た。

 

そして二人は、この作品を通して、イデオロ

ギーや一般的な社会からの評価などには一切関

係なく、“笹川良一”という人物について、純粋

かつ自由に語ってみたいと考えたのです。

 

笹川良一少年は、空に憧れ、いつの日にか空を

飛び回りたいと、大きな夢を語っていました。

そんな小学校時代の良一少年には、全くタイプ

の違う同級生がいます。

 

その少年の名は川端康成、後にノーベル賞作家

となる人です。

 

この物語は、後世に名を残す二人の少年、そし

て彼らが想いを寄せていた一人の少女との出会

いから始まり、山本五十六東條英機、市川右

太衛門、川島芳子愛新覚羅溥儀、ベニート

ムッソリーニ白洲次郎三島由紀夫、大森智

辯、松下幸之助田中角栄ら、軍部・政財界・

芸能界・操觚界・宗教界などの著名人との交流

を交えながら、良一が九十六年の生涯を閉じる

日まで続く、長い長いファンタジーとなってい

ます。

 

笹川良一は生涯にわたって、ただの一度も暴力

を振るったことがなかったといいます。

何故なら、彼は暴力などを使わなくても、その

存在を十分に主張できる術を持っていたからな

のです。

 

また彼は生涯にわたって、ただの一度も他人に

服従したことがありませんでした。

何故なら、彼は犯罪や脱税や不正行為はもちろ

ん、“お天道様に顔向けできないこと”は、何一

つとして行っていないからなのです。

 

良一は、第二次世界大戦前は米相場や株式相場

で巨万の富を築き上げ、“大衆右翼”を名乗って

政治活動をしていましたが、対米戦争に反対

し、東條英機政権に真っ向から異を唱えた彼

は、果たして世の評価が言うような単なる“右

翼”だったのでしょうか?

 

また彼は第二次世界大戦後、世界平和を唱え、

その憧れの対象を空から海に変えて“日本船舶振

興会”を設立、その収益や個人財産の大半を、ハ

ンセン病撲滅運動をはじめとする社会活動に費

やしていますが、果たして世の中の一部の者が

言うような単なる“偽善”だったでしょうか?

 

そして彼は、長い生涯の中で、何人もの女性に

影響を与え、影響を与えられながら生き続けました。

彼には常人には想像できないくらいの深く大き

な愛の心があったのかも知れません。

 

笹川能孝と河合保弘は、笹川良一の人生を、同

級生であった川端康成を準主役に据えて、客観

的かつファンタスティックに描くドラマがあっ

ても良いのではないかと考えました。

 

川端康成も、彼がノーベル賞作家として残した

多くの素晴らしい作品については誰もに知られ

ていても、その人自身の人生については、意外

と知られていないのではないでしょうか。

 

日本人最後のファンタジスタ

 

ファンタジスタ”とは、イタリア語が語源で、

機知やユーモアに富んだ役者や、天才的なプ

レーを見せるサッカー選手に対する賛辞として

使われている言葉です。

 

かつて、民間人の身でありながら二十機の飛行

機と専用飛行場まで持っており、空を渡って満

州国皇帝・溥儀やイタリアのムッソリーニ総統

との面会まで果たした笹川良一、その誰にも真

似のできない空前絶後とも言える生涯を一言で

示すに相応しい言葉なのではないかと感じてい

ます。

 

本作は、笹川良一川端康成という、同じ小学

校で席を並べていた二人の偉人を主人公とした

娯楽作品です。もちろん史実に基づいた内容に

はなっていますが、各所に想像を膨らませて書

いたエピソードを入れていますので、肩肘張ら

ずに読んでいただければと願っております。

 

それでは、笹川良一川端康成という、二人の

魅力的な人物が織りなすファンタジーの世界に

ご案内いたします。